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「他の生命を体内に取り込み、エネルギーとする」
ということは取り込み口が必要となる。
我々は頭部の正面に、目が2つと口1つで構成されているが、
それでは足りない。
口が2つ必要となる。
すなわち、大気を取り込む口と、他の生命を取り込む口だ。
そこに待ったがかかったのだ。
『口を2つにするだと?そんなことをしたら、コストが跳ね上がるだろう!』
そして『君はコストの意味を理解しているのか!』と続いた。
『しかし・・・エネルギー源が複数あるということは、取り込む口もそれだけ必要になるわけでして・・・』
物理設計リーダーが恐る恐る反論をした。
『君には創造力というものが欠如しているようだな。』
新リーダーは薄ら笑いを浮かべながら言った。
着任依頼、はじめて眉間のシワが取れた顔を見たが、
その表情はさらに見るものを恐怖に陥れる。
『創造力・・・ですか・・・。』
『そうだ。いいか?』
そういってホワイトボードに向かい、ペンでなにやら描きだした。
『目は2つ、これはいい。前後の距離感の計算に必要となるからな。』
『はい。』
『問題は今回追加になった口の方だ。』
『はい、他の生命を取り込むために、鋭利な歯を配置してみましたが・・・』
『この口が余計だ』
『え!?』
『大気の取り込み口と一緒にしろ。』
『しかしそれでは、生命を取り込んでいる間は、大気と取り込むことができません。』
『そこが未熟だと言っているんだ。』
『・・・』
『小さな穴を配置すればいい。生命を取り込んでいる間にはこの穴を使って大気を取り込むのだ。』
『しかしそれでは、結局は口が2つあるのと一緒では・・・』
『はぁ・・・君は工夫という言葉を知らないのかね?
いいか?整理するぞ。
口は1つ。そしてその上に小さな穴を配置するのだ。これを鼻と呼ぶことにする。
メモしたか?』
『あ、はい。鼻と・・・。』
『この鼻は口のように動かす機能は不要だ。
大気の取り込みだけだから不要だろ。これだけでも随分とコストが下がる。』
『確かに不要です。しかし口を使っての会話はどうするのですか?
生命を取り込んでいる間に会話はできなくなってしまいます。』
『できないか?試してみたのか?』
『いえ・・・』
『できない理由を探すのではない。
さっそく明日からシミュレーションに入るのだ。』
『わかりました・・・整理させてもらっていいですか?』
メモに目を落とす。メモには特に何も書かれていないのだが、
リーダーの目を見て話していると頭が真っ白になってしまうほどの恐怖感を覚える。
『まず口は1つ、その上に穴が・・・鼻という名称の穴が1つ。
口の用途は生命の取り込みと会話。鼻は大気の取り込み。これでいいですね?』
『口の用途にもう1つ加える。大気の取り込みもできるようにしろ。』
『大気は鼻で取り込むのでは・・・』
『両方だ。生命を取り込んでいる時に
大気を取り込むのは効率が悪いだろうからな。』
『となると・・・鼻の目的は、生命を取り込む際の
大気の取り込み用ということですか?』
『そうだ。しかし普段から使ってもいい。
鼻には雑菌を取り除く機構を入れておくのだ。』
『雑菌?地球には雑菌があるんですか?』
そこまで言って「シマッタ!」と思った。
『君はそんなことも知らなかったのか?資料はどうした?』
資料はすべて読んだ。そして雑菌についての記述も確かにあったが、リーダーを前にし、頭の回転が鈍っていたのだ。
『申し訳ありません。確かにそういう記述がありました。』
『やはり未熟だな・・・。明日までにもう一度読んでくるように。』
そういってリーダーは部屋を出て行ったのだった。
(続く・・・)