『今日の晩飯もスライムか・・・』
噛み切るのにやっとの歯ごたえ。
噛み切ったと思ったら、その瞬間 鼻をつく生ごみのような匂い。
食べるものが無くなって10日。
モンスターを倒してそれを食料にすることでなんとか生き延びていた。
疲れ果てているが宿屋に泊まるゴールドもない。
万が一にでも負けないようなスライムレベルを相手にするしか方法はなかった。
さらにそれを食べることで命をつないでいた。
なぜオレがこんな目に・・・。話は90日前に遡る。
『いやぁすいません・・・』
道具屋で薬草を8つ注文したとき後ろから人懐っこい声が聞こえた。
振り向くとガタイのいい中年男性が立っていた。
『いま大丈夫ですか?』
多少の間の悪さに少しばかりイラッとしながらも一緒にパーティーを組めるかもしれないと思い、丁寧に返事をした。
『はい。あ、ちょっと待って下さいね。』
そういって注文していた薬草を道具屋の店主から受け取った。
『おまたせしました。職業は?』
見かけから想像して、おそらく戦士だろうか。
いや、武器も防具も身につけていないから武闘家といったところか。
『いえいえ、私は冒険者ではないんです^_^;』
失望が顔に出ないように注意しながら彼の次の言葉を待った。
『私、一緒に魔法使い養成塾を経営してくれる人を探してまして』
塾!?
パーティーを組んでくれる相手がおらず困っていた。
ルイーダの酒場には登録しているがここ3週間ほど連絡はない。
たまに顔を出すが、この街の特産品である濃厚な小麦をふんだんに使ったアリアハンビールを1杯だけ注文し店を出ることがほとんどだった。
稀に「いい人がいるよ」とプロフィールを見せてもらってもレベルが低すぎて、組む意味がない奴ばかりだった。
『やはり自分で組む相手は探さなければならいのか』
と思っていた矢先に声をかけられたのだから、てっきり
『あなた魔法使いですよね!?私はレベル10の武闘家です!一緒に組みませんか?』
という言葉が出るかと期待していた。
しかし出てきた言葉は「塾」だったのだ。
『塾・・・ですか?』
『そうなんですよ。ド素人を、とりあえずスライムを楽に倒せるくらいのレベルまで鍛えあげる塾です。』
『はぁ・・・』
『最近、物騒でしょ?
オレなんてこの前、近くの森で薬草を探しにちょっと行ったんですよ。
そしたらほれ、このザマです。』
そういって右腕の火傷の跡を見せた。
『バブルスライムです。いやぁ死ぬかと思った。』
『そうですか・・・。』
『でね、魔法の1つでも使えれば、まぁドラキーとまでは行かなくても
スライムくらいなら簡単じゃないですか。
護身術として、メラくらいを使えるようになる塾を立ち上げようと思ってたんです。』
『なるほど・・・』
『で、魔法使いの方を探してたんです。』
『なんで私なんですか?』
『森で集めた薬草を、道具屋に卸しに来たんですよ。
そうしたら、たまたまあなたを見つけてw』
『たまたまですか・・・』
『引き寄せっていうんですかね?こういうの』
短絡的過ぎる発想はどうにも苦手だが塾を経営するというのは面白いと思った。
『私は何をすればいいですか?教えたことなんかないですが・・・』
『立ち話もなんですから、そこのカフェに入りませんか?』
『申し遅れました。私、ダーマといいます。』
ダーマ?どこかで聞いたことがある・・・あぁそうだ。遠く東にあるという、職業を変えることができる神殿だ。
もしや、あのダーマ!?
『ダーマ神殿とは関係ないです。』
あ、そう。拍子抜けしながらも私も名乗った。
『私はハリーといいます。』
『ハリーさんはレベルはいくつなんですか?』
『私は昨日で10になりました。』
『10!?それは凄い!!じゃあメラミとかも使えるんですか?』
『いえいえ、それは17くらいなので、まだですね。』
『じゃあ、ギラなんかは?
『はい、それは先々月に。7のときですね。』
『もしかして、ヒャドも!?』
『ええ、ヒャドはギラの少し前ですね。』
『凄い!ということはバイキルトもか・・・。いやぁいい人に出会った。』
『いえ・・・バイキルトはまだ先ですね。』
『そうですか。でもハリーさんならすぐですよ。』
根拠のない褒め言葉だが、そんなに悪い気はしなかった。
『先週リレミトを覚えてから、洞窟の探検が楽になりましたね。』
『リレミトというと・・・?あれですか、明るくするやつ?』
『それはレミーラです。リレミトは、洞窟から一瞬でワープして抜け出せるんです。』
『おお!それはいいですね。知らなかったです。レミーラかぁ。覚えておきます。』
『いえ、リレミトです。』
『レ・・・まぁそんなことより、養成塾なんですけどね。』
『はいはい。私は講師ですよね?ダーマさんが経営者ですか?』
『そうですね。一応経営してたことがあるんで、いろいろわかるんですよ。顔も効きます。』
それは頼もしい!経験者か。
私が講師をして、ダーマが経営をする。悪くない話だ。
いや、むしろ新しい展開に胸が高鳴っていた。
実際に心臓の鼓動が「ドン!ドン!」と聞こえてくるようだった。
ドン!ドン!
その音は次第に大きくなってきて、店そのものが揺れているようだ。
ぐわぁ~!!
猛獣の吠える声がすぐ近く聞こえた。
『逃げろ!』
店主が叫ぶ。
それに続くようにダーマも大声をあげた。
『モンスターが襲ってきた!』
私は身構えた。しかしすぐに冷静になった。
いままで何度も戦い、そして圧勝してきた「アニマルゾンビ」だったからだ。
ベロを抜かれた牛が恨みを抱えてゾンビ化したこのモンスターは、腹のあたりがごっそりと剥げ落ちて骨や内臓が丸見えになっている。
いや内臓はほぼ無いといっていい。
最初に出会った時にはレベル6の時で相当苦労した。
『あぁ大丈夫ですよ。すぐに終わります。』
そういって私は外に出てアニマルゾンビと対峙した。
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