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ダーマによる2万ゴールド詐欺事件から3ヶ月。
ダーマに声をかけられた時は怪しんだがすぐに「塾経営」という新しいビジネスモデルにワクワクした。
一心不乱に仕事をし、先が見えてきたと思った矢先の裏切り。
そして・・・怪我。
幸い怪我は軽かったが、資金が枯渇したどころか1万ゴールドの返済が残っていた。
店を売却したがまだまだ足りず今後は毎月1000ゴールドづつ返済しなければならない。
なんで俺だけがこんな目に。
怪我は軽かった。
しかしとてもまともに戦える体とはいえない。
完全に回復するまであと半年はかかるらしい。
店舗はすでに手放しており、たまに過去の受講生や知人相手に魔法を教えることで生計を立てていた。
しかしそれもすべて返済に回さなくてはならない。
万が一にも負けないようなスライムを狩ることでなんとか生き延びていた。
数年前ならモンスターを倒すことでゴールドを得ることができたのだが、最近はまったくゴールドを落としていかない。
スライムを倒すのは、それを食料にするためだけだ。
モンスターを食べるだなんてなんとも情けない話なのだが、しょうがない。
それにしてもスライムなど、いくら食べても慣れるものではない。
『しっかしなんでこんなに生臭いんだ?』
いや、見るからにまずそうなこのモンスターを口にする方が悪いのだ。
うまいわけがない。
試しに魚の調理と同じように、焼いてみようか。
その辺にあるアリアハンだけに生息する樹木から枝を数本切り取り地面に並べ、さらにその上に落ち葉をパラパラと乗せる。
指を立て、意識を集中しそこにメラを放つ。
バスッ!
ちょうどいい火加減のメラが木の葉をの下の枝に届き、じっくりと葉にも燃え広がっていく。
傍らに転がっている、さっき倒したばかりのスライムに目をやる。
すでに命はなくスライムというよりただのゼラチン質といったほうがしっくりくるこの塊に、鋼の剣の刃を差し込む。
こぶしと同じくらいの大きさに切り取り、つい先月治ったばかりの左手で持った。
『明日の天気はどうだろう』
ぼんやりと考えながら左手に持っているそのゼラチンを炎の中に放り投げる。
数秒程度でチリチリと音を立て始めた。
10秒も経つとこぶし大のゼラチン全体に火が回るのが見えた。
火で熱せられた部分は、しばらくすると真っ白に色を変えていく。
まるでゆで卵のようにも見える。
『ん?』
動物性タンパク質を思わせるうような、意外にいい香りが漂ってきた。
動物系の肉の油の匂いだ。
『まさか・・・』
焼くことで一瞬で溶けてしまうかと思っていたが、意外にもほとんど原型をとどめたままのそれを剣で刺して取り出す。
フーフーと冷まし、口に運ぶ。
その瞬間、高級な牛肉を思わせるような、控え目でそれでいてアピールしてくるようなしっかりとした味が口いっぱいに広がっていった。
『うまい・・・信じられない・・・』
スライムは、低温で熱することで恐ろしく旨い食材へと変化したのだった。
10人の魔法使いが綺麗に整列している。
黒い装束に身を包み、まるで何かの儀式が始まるかのようだ。
彼らは10メートル程度先の何もない地面に向かい手のひらをかざした。
次の瞬間、巨大な火の玉が轟音を響かせながら10個飛び出し地面に激突する。
メラミだ。
さらに10メートル以上離れたこちらまで熱波が押し寄せる。
大量の火の玉が激突した先の地面から煙が消え、300の文字が浮かび上がる。
『300店舗達成、おめでとうございます!!』
今日は、300店舗出店を達成した記念日。
魔法使いのパフォーマンスから始まった式典はすでに盛り上がりを見せていた。
100人を超える社員 全員がこちらに大きな拍手をしながら、笑顔を向けている。
スライムを焼いて食べた半年後。
アリアハンには、私が経営するスライム料理屋が3店舗になっていた。
さらにその北のレーベの街にも2店舗。
さらにそれから1年経った現在、世界中で300店舗を超えた。
焼きスライムは一大ブームとなり、発明した私は時の人となった。
しかしまだまだだ。副社長であるオルデカとともに、まだまだこのビジネスを成長させていこうと思う。
そういえばダーマはいまだにアリアハンの牢獄に監禁されているらしい。
アリアハンでは窃盗の罪は重くまだしばらくは出てこれないであろう。
しかしダーマに恨みはない。
あの一件がなかったら、スライムを熱で調理することなどなかっただろう。
ピンチこそチャンス。
チャンスこそピンチ。
いったい何が起きるかわからない。
だから人生は面白い!!
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